電子帳簿保存法では、領収書やレシートなどを電子データとして保存しておくことを認めています。同法は改正によりしばしば対象や要件などが変わる点には注意が必要です。
本記事では、2022年に改定された内容を中心に、紙の領収書の電子保存の必要性やメリットなどについて解説します。経理処理はもちろん、取引先との授受や自社の業務の効率化、さらにはDX化など幅広く関係してくるため、紙の書類の電子化について理解し、状況に応じて積極的に取り入れていきましょう。
紙の領収書は電子保存する必要がある?
紙の領収書は、電子保存することが可能です。あくまでも可能であるというだけで、電子保存するかどうかは任意となっています。2024年時点では、電子帳簿保存法において、紙の領収書の電子保存は義務化されていません。電子保存が義務化されているのは、データによってやりとりをした領収書やレシートなどです。紙の領収書を電子保存しない場合は、従来通り紙のままの保存が求められます。紙の領収書をデータ化しハードディスクやクラウド上に保存できる状態にした場合は、紙の領収書は破棄しても問題はありません。
ちなみに、ネット通販などを利用し仕入れをしたとしても、取引先から郵送で紙の領収書が送付されるケースでは、その領収書においては電子保存の義務は生じません。実店舗などで買い物をして受け取った紙の領収書と同じ扱いとなります。紙のまま保存するか、データ化し電子保存するかの選択が可能です。
紙の領収書を電子保存する方法・手順
紙の領収書をデータ化し保存する方法は「スキャナ保存」と呼ばれます。スキャナ保存をするにあたり、税務署への届け出など特別な手続きは必要ありません。領収書をはじめとした紙の書類をパソコンなどにスキャニングし保存するだけなので、スキャナ保存の流れ自体はとてもシンプルです。しかし、事前準備が必要であり、また、電子帳簿保存法によって効力のある書類として認められるための要件が定められている点には注意しましょう。ここでは、そうした要件や注意点にも触れながら、紙の領収書を電子保存する方法と手順を紹介します。
1.事前準備
まずは、電子保存に活用可能なソフトを導入しなければいけません。一般的に会計ソフトや経理ソフトなどと呼ばれるもので問題ないでしょう。これから導入する企業は電子帳簿保存法に対応したシステムを選択すると、紙の書類の電子保存をよりスムーズに行えます。データ化の前に、同法で定められた要件の確認も必要です。スキャナ保存の場合、解像度が200dpi相当以上でなければいけません。また、赤色と緑色、青色がそれぞれ256階調以上であることも要件の一つです。
領収書は、資金や物の流れに直結・連動する書類のため「重要書類」に区分されます。重要書類は一般書類と異なりグレースケールでの読み込みと保存が認められていないため要注意です。上記の要件を満たせば、パソコンやシステムへの読み込みはスキャナを使用しなくても構いません。スマートフォンやデジタルカメラなどでも代用できるため、スキャナの用意が難しい場面では、適宜別のデバイスを活用してスキャナ保存を行いましょう。
2.領収書の読み込み
スキャナなどを活用し、紙の領収書をパソコンなどに読み込みます。スキャナの設定が間違っていたりゴミなどが入り込んだりしていると、鮮明な画像として保存できない恐れが出てくるでしょう。可視性の確保に問題があるとされ、電子帳簿保存法違反にも問われかねません。第三者が見ても問題がない画像となっているかを必ず確認します。
同じく電子帳簿保存法で定められた検索機能要件を満たすには、取引の日付や金額、取引先を容易に検索できなければいけません。規則性のあるファイル名をつけ特定のフォルダに集約するなど、読み込んだ領収書の扱いについても注意しましょう。
3.システムへの取り込み
事前に導入した会計ソフトなどに、スキャニングした領収書を取り込みます。システムへと取り込む方法はいくつかあるため、会計ソフトに合った方法や、そのときどきに適した取り込み方を選択しましょう。大量の領収書をまとめて取り込めるアプリなどもあります。ソフトの導入時や実際にスキャナ保存をする前に確認しておくと、スムーズなデータ化が可能です。システムへの取り込みが完了したら、再度、内容に間違いがないかを確認します。
4.タイムスタンプの付与
紙の領収書をデータ化したら、タイムスタンプを付与しなければいけません。タイムスタンプとは、電子書類(今回の場合は、電子化された領収書)が改ざんされていないことなどを証明する技術です。時刻認証業務認定事業者(TSA)が発行し、各電子書類に付与されます。紙の領収書は、このタイムスタンプが付与されてはじめて電子保存が完了したといえるでしょう。
タイムスタンプの付与のためには、まず、企業などが電子書類を作成・保存する際にTSAに対してタイムスタンプの発行を要求します。TSAはタイムスタンプトークンを企業などに送付し、送られた側はタイムスタンプトークンと電子書類を一緒に保存しなければいけません。企業などはTSAから各タイムスタンプトークンに合致する鍵を受け取り、電子書類の情報と照らし合わせます。問題がなければ、改ざんなどがされていないことが証明されるという仕組みです。
タイムスタンプの付与が自動的に行われるシステムを導入・運用している場合は、企業側がその都度TSAへと発行の要求をする必要はありません。また、電子データの修正や削除などが履歴として残り確認が可能なシステムや、入力期限内に紙の領収書を電子保存したことが確認できるシステムを活用している場合もタイムスタンプは不要です。これらの点も踏まえて、事前準備の際には会計ソフトなどの選別を行うとよいでしょう。
紙の領収書を電子保存するメリット
電子帳簿保存法では、紙の領収書の電子化までは義務化されていないため、従来通りの保存方法でも特に問題は生じないでしょう。しかし、電子保存へと切り替えることで、企業はさまざまな恩恵を受けられる可能性があります。ここでは、紙の領収書を電子保存することで得られるメリットを紹介しましょう。
検索性の向上
日付や取引先ごとに物理的なファイルを用意し、そこに紙の領収書やレシートをまとめておくのが従来よくみられた保管方法です。内容の確認などの際には、そのファイルから特定の書類を見つけ出さなければいけません。紙の領収書を電子保存しておくと、システム上で必要事項を入力するだけで得たい書類情報を手に入れられます。検索性が格段に向上し、本来の業務にも集中しやすくなるでしょう。
保管スペースの削減
電子保存が完了すれば紙の領収書は破棄できます。ファイルなどに入れて保管しておく必要がなくなるため、電子化した書類の分だけ、スペースの削減が可能です。棚なども整理しやすくなり、オフィス環境の改善にも寄与するでしょう。特に領収書は、長期間の保存が義務付けられています。1枚だけではさほどスペースは必要ありませんが、7年や10年といった期間の分の領収書を電子化できれば、大幅な保管スペースの削減が可能です。
紛失の防止
物理的な紙の領収書では、紛失するリスクを拭えません。誰かが持ち出してしまう恐れも常にあります。作業中に破ってしまったり、印字が薄れて内容が確認できなくなってしまったりなどの問題も起こりえるでしょう。紙の領収書を電子保存しておくと、そうしたリスクや問題を防止できます。パソコンやハードディスクへの保存のみでは紛失や破損のリスクが残りますが、クラウド上へ保存しておけば、さらなるリスクの軽減が可能です。
経理環境の改善
電子化した領収書は、その後、データでの管理が可能となります。領収書だけではなく、さまざまな書類の管理がシステム上で行えるため、経理業務の効率化が図れるでしょう。領収書と取引履歴を紐付けたり、領収書の内容を他の書類へと反映させたりなども可能です。手書きの領収書の場合、しばしば確認に手間取るケースもあります。会計ソフトを利用して電子化すれば、そのような手間も大幅に削減できるでしょう。仕訳作業も容易にできるなど、紙の書類のデータ化はさまざまな観点から経理環境の改善へと寄与します。
透明性の確保
紙の領収書を電子保存すると、改ざんが困難となります。また、保管場所や内容が誰か特定の人にしかわからないといった状況も回避できるでしょう。社内の必要な人がいつでも領収書の内容や履歴を確認できる状態にもできます。もちろん、担当者以外の閲覧などには制限をかける必要が出てくるケースもありますが、紙の領収書の電子保存は透明性の確保に寄与することは確かです。
コストの削減
ここまで説明してきた、紙の領収書を電子保存することで得られるさまざまなメリットは、コストの削減ももたらします。検索性の向上は時間的コストを削減し、紛失や改ざんの防止は損失回避へとつながるでしょう。経理環境が改善し業務の効率化が図れれば、人件費や残業手当などが削減可能です。システム上でのやり取りや管理が可能となることでリモートワークなどの導入も進み、保管スペースが削減できればオフィスをコンパクトにもできます。結果、オフィスの賃料などの固定費の削減も可能でしょう。
領収書管理に便利な会計ソフト
紙の領収書の電子保存や、その後の管理には、会計ソフトの導入および運用が不可欠です。これから導入する場合は電子帳簿保存法に対応したソフトを選択するとよいでしょう。ここでは、電子化された領収書の管理に便利な会計ソフトを紹介します。
WEBバランスマン
公益法人として利用するなら「WEBバランスマン」は一つの選択肢となるでしょう。WEBバランスマンは、簿記の知識がなくても利用が可能な設計となっています。予算管理や決算書類の出力も容易にでき、さまざまな経理業務が可能です。電子帳簿保存法にも対応しており、領収書などの電子保存も手間なく行えます。検索や確認に関する設計にも優れているため、電子保存後の管理もしやすいでしょう。オプション機能を加えると、さらに効率化を進められる会計ソフトとなっています。
楽楽精算
株式会社ラクスが提供する「楽楽精算」は、これまでに多くの企業に導入されきた実績をもつ会計ソフトです。電子帳簿保存法にも対応しているため、領収書をはじめさまざまな紙の書類を電子化でき、ペーパーレス化を実現できます。検索機能はもちろん、タイムスタンプの自動付与機能も備えているため、経理業務も大幅に効率化できるでしょう。領収書などの自動データ化もできます。外出先などでも紙書類の電子化が可能な点もメリットです。
紙の領収書の電子保存についてまとめ
紙の領収書の電子保存は義務化されていないため、紙のままでの保存も可能です。しかし、データ化してクラウド上などで管理しておくと、保管スペースの削減や紛失の防止など、さまざまな恩恵が受けられるでしょう。電子帳簿保存法に対応した会計ソフトの導入により、電子保存できるだけではなく経理業務の効率化も図れます。
結果、大幅なコストの削減も難しくはありません。多くの企業にとって紙の書類の電子化は利益の押し上げへとつながる可能性があります。さらなる法改正により紙の領収書の電子保存が義務化される前に、積極的に取り入れておくとよいでしょう。