原則として給与や原稿料、報酬を支払う法人は、支払う金額に対して源泉徴収を行い、所得税として納税する義務があります。とはいえ、企業などから支払われるお金のすべてが源泉徴収の対象とはなりません。中には対象外となる支払いもあるでしょう。
それでは、謝金はどのような扱いになるのか、謝金に対しても源泉徴収をすべきかという点を中心に解説していきましょう。
源泉徴収とは?
源泉徴収とは、法人が雇用している従業員に対して支払う給与や賞与、さらに雇用関係がない個人に対して支払う報酬に対し、納付する必要がある所得税分を代わりに納税するために行います。
源泉徴収は給与や報酬から所得税分を徴収すること
従業員を持つ法人は源泉徴収が義務付けられており、徴収した所得税は給与や報酬を支払った翌月に納税する形となります。一部の従業員数が少ない法人の場合は、納税のタイミングが毎月ではなく年に2回となるケースもありますが、原則としては毎月支払う形となります。
源泉徴収は、支払う給与や報酬の金額によって率が定められているのが特徴です。具体的には、支払う金額が100万円以下の場合は10.21%、100万円を超える場合は100万円までの10.21%に加えて、100万円を超える部分の20.42%を徴収します。
例を挙げると、支払額が100万円の場合は10.21%に当たる102,100円が源泉徴収されます。また、金額が150万円の場合は、100万円の10.21%に当たる102,100円に加え、100万円を超える50万円に対する20.42%の102,100円が徴収されるため、合計で204,200円の源泉徴収が必要になるでしょう。
源泉徴収の対象となるもの
給与や賞与はもちろん、退職金なども源泉徴収の対象となります。
また、報酬では弁護士や司法書士に支払う報酬、デザイナーに支払うデザイン料、作家に支払う原稿料、講演会を行ってもらった方に支払う講演料などが一般的でしょう。やや変わったところでは、競馬の馬主に対して支払われる賞金も源泉徴収の対象となります。
仮に、法人が報酬という名目でなく支払ったものでも、第三者が見て報酬であると見做される支払いに関しては、すべて源泉徴収の対象となると考えて差し支えありません。
なお、源泉徴収が義務とされるのは法人であり、個人事業主であっても報酬を支払う場合は源泉徴収をする義務があります。ただし、法人ではないフリーランスの方が支払者となる場合は、源泉徴収の義務は発生しません。
源泉徴収の対象とならないものの例
報酬を支払うにあたって源泉徴収が発生しない例として、家事使用人に対する報酬があります。家事使用人とは、分かりやすく言ってしまえば家政婦(夫)のことを指します。例えば、個人で2名以下の家事使用人を常時使用している場合は、この家事使用人に支払う報酬は源泉徴収の対象外となります。
家事使用人に対する支払いは、「事業に関係のない家事に対する謝礼(謝金)」の意味合いが強いという判断になります。しかし、源泉徴収の対象外であるということは、経費として計上できないということも意味します。
少々分かりにくい点として、家事使用人に対する報酬は源泉徴収の対象外ですが、介護ヘルパーやベビーシッターに対する報酬は源泉徴収の対象となることにも注意しましょう。
給与所得者は確定申告をしなくていい?
一般的に会社員と呼ばれる給与所得者の方は、確定申告をする必要がありません。確定申告とは、前年の収入を申告しその年の税額を決めるために行うものです。給与所得者の場合、毎月の給与から源泉徴収され所得税を納付しているため、確定申告は不要となります。
そのような給与所得者の中でも、確定申告をする必要があるケースがあります。それは給与以外に収入がある場合や控除されるべき項目がある場合です。たとえば、給与所得者が不動産を所有し家賃収入を得ている場合は、年間の収入が給与所得だけではなくなります。この場合、自身で確定申告を行う必要があるでしょう。
このような給与以上の収入がある場合とは逆のパターンもあります。たとえば、年間の医療費が高額になり、医療控除を受ける場合などです。
源泉徴収は、給与などから控除分を差し引いた金額に対して計算されます。医療控除などでその控除金額が増えればそれだけ所得は低くなり、源泉徴収で支払った金額が多ければ返還されるということになります。控除額が大きくなる場合は、個人での確定申告が必要になるでしょう。
年末調整で最終調整される
源泉徴収は毎月行われます。しかし、1年間の所得で計算した場合、源泉徴収額が多すぎる、少なすぎるというケースがあります。こうした調整を行うのが年末調整です。源泉徴収とともに年末調整も会社が行う義務があり、多くの会社では年末調整までに書類提出を求められるでしょう。
年末調整とは、会社が従業員に代わって行う確定申告のようなものです。万が一、年末調整に必要な書類の提出が遅れてしまった場合には、自身で確定申告をする手間が発生してしまうので注意しましょう。
謝金とは?
続いて、謝金について解説していきましょう。
謝金とは会社の事業に協力してもらったお礼として支払う金銭であり、謝礼金と言われることもあるでしょう。会社が謝金を支払うケースとしては、たとえば従業員に対する教育の意味がある講演会を依頼した場合に、講演者に支払うものが謝金となります。
また、事業に必要な研究をお願いした場合の研究費、執筆を依頼した場合の原稿料、事業に協力してくれる事業者を紹介してもらった紹介料なども謝金に含まれます。
謝金についての詳細は、以下で解説していきます。
謝金は源泉徴収の対象となるのか?
謝金を考える上で問題となるのが、謝金が源泉徴収の対象となるのかどうかという点です。
前述した通り、謝金は場合によっては報酬と判断されます。報酬であれば、源泉徴収の対象となるでしょう。
原則謝金は源泉徴収が必要
原則、謝金は源泉徴収の対象となります。税制的な視点で考えると、講演料も原稿料も、研究費用もすべて自社の事業のために仕事を依頼し、その仕事に対して支払う対価ということになります。仕事に支払う対価である以上、名目が謝金であったとしてもそれは報酬とみなされ、報酬であるために源泉徴収を行う義務が発生します。
名目が報酬ではなくとも源泉徴収が必要になるというケースでは、謝金に限らず旅費や宿泊費、車代などもすべて源泉徴収の対象です。こうした名目で支払った金銭に関しても、しっかりと源泉徴収し、所得税として納税しましょう。
旅費や宿泊費などに関して、源泉徴収とならないケースとしては、旅費や宿泊費を会社側で支払う場合です。支払者が仕事を依頼した会社の場合、その分は報酬とは切り離して考えられますので、源泉徴収をする必要はなくなります。
源泉徴収が不要な謝金
謝金の中で源泉徴収が不要となる謝金があります。
たとえば、新聞の投稿に対する謝金、または懸賞応募作品で優秀な作品に送られる賞金などで、1回の支払いが5万円以下の場合は源泉徴収の対象外となります。新聞の投稿などの場合は、原稿料と考えることもできますが、金額が低い場合はあくまでも謝礼の意味が強い謝金として扱い、源泉徴収は不要です。
謝金と源泉徴収のまとめ
源泉徴収は法人の義務であり、会社や個人事業主でも、給与や報酬を支払う場合は必ず行わなければいけません。
原則としてすべての給与や報酬に対して発生しますので、報酬の名目が謝金であっても、それが報酬であるとみなされる場合は源泉徴収の対象となります。
一部例外として源泉徴収の対象外である謝金もありますが、基本的には源泉徴収を行い、しっかりと翌月納付するようにしましょう。